『新人が聞きたい美術のこと』第1弾 【前編】

その他


こんにちは!アックス入社3年目の保田です!

今回からスタートしたこの企画、我々アックス若手社員がインタビュアーとなり、業界を牽引してきた先輩社員に、聞いてみたい色々なことを聞いちゃおう!というインタビュー企画です。

第1弾はデザイナーの金子先輩。

TBSの美術に携わって40年になる、大ベテランのレジェンド社員です。これまで、「世界まるごとHOWマッチ」「ザ・ベストテン」「平成教育委員会」「うたばん」「CDTV」「輝く!日本レコード大賞」「男女7人秋物語」など、名だたる番組にデザイナーとして携わってきた金子先輩。
そのデザインの手早さから”天才金子”と呼ばれていたこともあるとか。
そんな金子先輩のデザインの秘密を、前後半の2回の記事に分けて余すことなくお送りさせていただきます!

まず、インタビュー前半ではこの40年を振り返り、テレビ美術がどのように変化してきたのかを伺いました。
新人時代に受けたまさかのドッキリエピソード、伝説的なあの番組のデザインでの苦労、さらにはTBSのデザイナーに受け継がれるこだわりについても聞くことができました!
それでは、本文をご覧ください!

 

「テレビ美術40年の変化とは!?」

金=金子先輩 保=保田記者


保:名だたるTBS番組の美術デザインを担当されてきた金子さんですが、美術として業界に入られて何年になるんでしょうか?

金:24歳の時に入社したから、、、今年でちょうど40年だね。

保:40年ですか、、!まさに我々が見てきたテレビの世界を作ってこられたわけですね、、、。
この40年、TBSの美術に携わってきた金子さんから見て、昔と今ではテレビのデザインはどう変わったでしょうか?

金:一番は、手描きとパソコンの違いが大きいね。
手描きには限界があって、パソコンはある程度自動的にやってくれるから、デザインのレベルはすごく高くなっていると思うな。
図面なんかはスピードアップしたし、綺麗なものが描けるようになったね。

保:当時は図面も手で描かれていたんですよね、、。

金:ただ、パソコンでは自分が意図していないところまである程度描いてくれちゃうという面もある。
あと、手描きの頃に比べると個性が出づらくなったかもね。
昔は道具帳(※大道具をどのように作るか細かく説明するための図面。)を見ただけで誰が描いたか分かったよ。
この字はあの人だな!とか。

保:確かに、パソコンでは綺麗に描けますね。他にも今と比べて苦労されたことはありますか?

金:当時の環境を言えばカラーコピーなんてなかったし、縮尺を変えることもまともにできなかった。
左右のバランスを変えるのにも、長方形のマス目に区切って描いたりしていた時代だったから。
とにかくそういうことにすごく時間がかかったよ。
例えば、「ザ・ベストテン」の松田聖子さんのセットで、シャンパンタワーを作ったことがあった。
後ろ半分はミラーで2倍に見せるようなものを作ったんだけど、確か500個ぐらいのグラスを使ってピラミッドを作っていくんだけど、グラスの寸法やら、傾斜がどのくらいかとか、奥行きはとか、何度も描き直していたら、結局その部分だけで8時間もかかったよ。
今ならそれぐらい簡単にピュっと描けるよね。

〈ベストテンセットイメージ〉

保:8時間も、、、計算するようなものなら、特にパソコンは得意ですもんね。
金子さんが入社した当時のテレビ美術業界はどのような感じでしたか?

金:「ザ・ベストテン」が始まって4年目に番組に入ったんだけど、その頃ちょうど”テレビのセット”というものが一般的に認識されていった時代だった。
それこそ歌舞伎の世界からずっと舞台のセットってものはあって、それまでも「8時だョ!全員集合」のセットなんかの印象はあったと思うけど、ベストテンのセットでも転換が入ったりとか、セットが動くぞとか。
それ以前はテレビの美術は大人しくて簡単なものが多かったよ。

保:「ザ・ベストテン」といえばまさに伝説的な番組ですが、大きな番組も若いデザイナーに任されていたんですね。

金:一つ上の先輩デザイナーの年が9つ離れていたような時代で、若い世代がいなかったんだよ。
若くていいねってことで仕事を任されることもあったよ。
入社して2ヶ月目に「東京音楽祭」のセットの発注を任されたこともあって、武道館のセットで、それまで大道具のバイトで入っていたことはあったから、図面なんかは書けたんだけど。
3番手のデザイナーとしてだったのに、いざ発注という時に先輩二人ともいないんだよ。お前やっとけ、みたいな感じで。
そのあと40分ぐらい遅れて先輩たちが来たんだけど、「そのまま続けて」って結局最後まで発注したんだよね。
当時はそれぐらい乱暴だったし、おかげで度胸もついたよ。

保:かなりストロングスタイルの教育ですね、、今のアックスはしっかり指導担当の先輩が付きますからね、、。
入社後すぐに担当した「東京音楽祭」はやはり思い入れが深いお仕事だったんでしょうか?

金:そうだね。思い入れ深いし、すごくよく覚えているよ。
道具帳にしたって、今はパソコンで完全なものを描くけど、当時は一つ柄を描いたら、同じ柄の部分に「以下同様」と図面に書いたりした。
そしたらそのまま「以下同様」と書かれたパネルが作られて来たという先輩の話があったよ。
実際には後ろにきちんと作られた書割のパネルがスタンバイしてるんだけどね。

保:そんなドッキリみたいなことがあったんですね、、!今ではなかなかそんなドッキリ話は聞かないですね。

〈金子さんのスケッチ①〉

〈金子さんのスケッチ②〉

「TBSのデザイナーに受け継がれるこだわり」

保:実際にデザインを進める上ではどのような点が変化していったでしょう?

金:当時は使える素材も豊富ではなくて、今みたいに壁紙とかCGの出力とか3Dパネルとか無い時代だったから、壁一枚作るにしても数少ない壁紙をどう使うか、打ち物で工夫したりと色々考えて苦労した。
立体のものを作りたいときなんかは、型から作らなきゃならないとか、非常にお金もかかったし、頭を悩ませたね。
当時思いついて今でもいいアイデアだったと思うのが、発砲スチロールを電熱線で波型にカットして、オリジナルのパネルを作ったりもした。
そういう工夫をよくしたよ。デザインに対して初めて挑戦することが多かったから面白かった。
そういう意味で出力とか柄に逃げられない。
白模型で立体を作って、模型で考えて、いかにかっこいいかってところで勝負していたね。

保:なるほど。TBSのデザイナーは模型をよく作ると聞いたことがありますが、、

金:そうそう!模型を作ると見えてくることがたくさんあって、「ここ」と「ここ」の隙間にやっぱり何か欲しいなとか、直線的な縦横の空間の中に何か斜めのラインを入れたいなとか、頭の中だけじゃ想像できない線が出てくるってことはある。空間を意識して作るってことだね。

保:そういった意識が今に受け継がれているんですね、、。今現在のテレビ美術を見て思われることはありますか?

金:最近のテレビのセットデザインは、縦横の線が多くなった感じがする。手で描いていた時は斜めの線が多かったよ。
そのほうがオブジェとして美しいと感じてたし。
自分自身パソコンで図面を描くようになって縦横の線が増えたなとも思うけど、LEDパネルを正面にドンと据えるセットが多くなったことの影響もあるかな。
もちろん今も斜めとか曲線を使うデザイナーはたくさんいるけど、水平垂直のラインがあってその中に装飾が入ってくるというセットが多いよね。

保:確かに、そういったセット、よく見る気がします。

金:あとは、(セットの色使いが)全体的にカラフルになっている印象もあるね。
俺自身カラフルにしようともしてきたけど、カメラとか照明の技術の進歩も大きいね。昔は(セットの)コントラストが強すぎるケバい色を使うと、白が飛びすぎちゃったり、赤ならガーンと浮いちゃったり、(放送上では)ハーフトーンがうまく出なかったからね。
今はハーフトーンでも派手な色味でも映像として表現できるようになった。

保:家電としてのテレビも、”色の再現性”とかを謳っていますしね。そのままの色がお茶の間に届くようになったんですね!

金:ただ、行き過ぎて装飾過多になっている番組も見受けられるよ。セットが派手すぎて、出演者の衣装の方がくすんで見えちゃうような。
美術だけで完結して満足するんではなくて、最終的には画面に映ったものが完成品なので、出演者がいかに見えるかというところまで考えないとね。
まあ、派手は派手で良いし、俺も好きなんだけどね。

保:ごもっともです、、!

〈金子さんのスケッチ③〉

〈金子さんのスケッチ④〉

保:他にも今と昔を比べて、思われることはありますか?

金:昔は資料を探すのも大変だったなあ。
お城のセットを作るとなったらわざわざ資料室まで行ったり、本屋に行って資料を探したりしたけど、今はネットですぐに見つかるのが良いよ。
とはいえ、出来る限り本物を見るということも大事だよ。実際に1/1スケールの空間に入って立体感とか空気を感じるってことね。
最近のドラマのセットは壁で囲われた大きなセットを建てることが多くなったし。
昔はどう撮るか事前に決めていたから、映る部分しか作らなかったんだよ。
喫茶店もL字しか建てないとかね。

保:ドラマのデザインもされてたんですね、、!
カメラの進化でドラマの撮り方が変わったという話は私も聞いたことがあります。

金:そうそう、カメラが小さくなったから狭い所で撮れるようになったし、照明も少ない照度で撮れるようになったから、ロケのように全面壁を囲ったリアルなセットを建てられるようになったんだよ。
昔のセットは照明を当てるために、天井なんてせいぜい奥に3尺ぐらいしか作れなくて、手前に欄間を垂らすとか、梁を待ってきたりして見切れないように工夫したんだ。
昔は梁のあるビルは普通だったから良いけど、今じゃそうもいかないから天井はしっかりつけて、そこに蛍光灯をつけたりして、完全にロケと同じようなセットを作って本物志向になっているよね。
スタジオ見学に行ったって、壁に囲われてて見えないんだから。

保:梁や欄間にはそういう使い方があったんですね、、。

金:あとは最近はロケが多くなったから、1クールのセット杯数(セットは”杯”で数えます。)が少なくなって、大きなセットを建てるようになってきてるね。
昔古川(古川先輩は次回インタビュー予定!)が担当していた番組で、1クールで40~90杯建てたことがあると聞いたけど、今じゃ考えられない数だよね。

保:90杯、、!驚愕の数字です、、!

金:俺も1週間に7つ新規セットを建てたことがあったよ。
広いカフェのセットでも、奥に一枚の壁、手前に一本柱を建てて、その間はテーブルと観葉鉢を並べて、1つのアングルからだけで広さを成立するように工夫して撮ったりね。

保:1つのアングルに絞るということは、どういう画面になるか、デザイナーへのプレッシャーもより強くかかりますね、、。

金:そうだね。だから打ち合わせの時からどう撮るかディレクターとよく話したし、デザイナーとしてこう撮ってくれと要望も伝えていたよ。
面白い話があって、先輩デザイナーがロケ先でセットを組んだときに、ディレクターから、「横にもうちょっと飾りが欲しい」と言われたことがあった。
そのとき先輩は一枚の紙を持ってきて、カメラの端に少し被せて、「なんか持ってきたら良いんじゃないか?」と言った。
それは、「手前に物を置いて、それをナメて撮れば後ろは隠れるだろ?」ということなんだけど、それぐらいの主張もデザイナーがしていたんだよ。

保:それはすごい、、なかなか真似できないです、、。

金:でもそういうことはよくあって、位置決め(撮影リハーサルの前に、役者や美術品の配置・動きを定め、どのような画を撮るかを確認する打ち合わせのこと)の時はディレクターの横に必ずついて、どう撮って欲しいと自分の意見を必ず言うようにしたよ。

保:なるほど。先ほどの、”美術だけで完結してはいけない”というお話に通じる部分ですね。

前編はここまで!

後編では、実際に番組のデザインを作り上げていく過程や、その発想方法など、パーソナルな部分によりフォーカスして掘り下げていきます!

それでは後編もお楽しみに!保田でした。