『新人が聞きたい美術のこと』第1弾 【後編】

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毎度どうも!アックス入社3年目の保田です!

アックス若手社員から、業界を牽引してきた先輩社員にインタビューを行うこの企画。第1弾デザイナーの金子先輩、後編の記事です!

インタビュー後半では、実際に番組のデザインを作り上げていく過程や、その発想方法など、パーソナルな部分にもフォーカスして掘り下げていきます!それでは、本文をご覧ください!

 

「とにかく描きまくる。腕が勝手に動くまで描く。」

金=金子先輩 保=保田記者

保:私も最近セットデザインをする機会を与えていただくようになりましたが、その分悩むことも多いです。
先日は、「好きなデザインをして良いよ」とかなり自由度のある案件があったのですが、自由な分、何を発想のとっかかりにすれば良いのかすごく悩んでしまいました。
そこで質問ですが、金子さんはデザインに取り組む際に、どのようなところを出発点に発想されるんでしょうか?

金:何を思って自由と言われてるのかだけど、考えの出発としては、どんなに少なくても演出側が何を望んでいるか意識を引き出すことが大事。
例えば、明るいのが良いのか、派手なのか、地味なのか、ふわふわしてるとか、重たいとか、抽象的でも良いからイメージを引き出したほうが良いよね。
あとは番組のタイトルとか番組の内容から連想ゲームをしてみる。
そこから発想する言葉を見つけて、”力強い”とか、”直線的”とか、いろいろなことを考えていって、発想のシナリオを作っていって、それがでっち上げでも、タイトルからの連想なら間違ってはいないよね。

保:具体的にはどういった順序で考えられてるのでしょうか?

金:最近のとあるニュースセットのリニューアルでは、元々のセットが直線的で、縦横斜めに細かくラインが走ったようなものだったから、そこから大きく変わる方がいいだろうと言うことで、大きな面でドンと捉えることを意識したね。
元のセットのベースは残しつつ。
大きな矩形で手前を囲って、その形が番組タイトルのイニシャルにも繋がるようなイメージで構成するって言う発想だったね。

保:なるほど、、。私の場合、「この発想で行こう!」と”0から1”にするまでになかなか考えがまとまらなくて、、金子さんはどうやって0を1にしていますか?

金:俺が意識してるのは、とにかく絵を描く。
描きまくる。腕が勝手に動くぐらいまで描く。
デザインは瞬発力だと思っていて、思いついた物をとにかく描き殴って、やっていれば何か出てくると信じて手を動かす。
模型も同じで、最初は図面も何も起こす前に、画用紙をハサミで切ってみて、細かい寸法なんかは感覚で良いから、こういう形が欲しいってのを置いてみて、これだと高いとなったら途中からチョキチョキ切って、足りないとなったらホッチキスで留めて、ノリで留める時間がもったいないからテープでベタベタ留めちゃうという。
周りからは”盆栽模型”って呼ばれたりしたよ。

保:とにかく手を動かすことが肝心なんですね。

金:スケッチをパソコンで模型サイズに引き延ばして、それをそのまま切り取って模型にしちゃうってこともあるし。
オブジェとしてのかっこよさを目指して作るんだけど、意外とボツにした模型を逆さにして使ったら面白いぞとか、ものを切った後のメス型が面白いぞとか。
ありとあらゆるものを使うよ。

〈スケッチを引き延ばして作った模型〉

保:何でも発想のタネにしてしまうんですね、、勉強になります、、!

金:過去の道具帳は残していないけど、アイデアスケッチは残していて、過去に描いたものからインスピレーションを受けてデザインすることもあるし。
描き殴っていれば何かでてくるという意識で描いてる。
とにかく描く。だね。

〈金子さんのアイデアスケッチ①〉

〈金子さんのアイデアスケッチ②〉

保:スケッチを描きまくるという部分は、入社当時から訓練されてきたことなんでしょうか?

金:そうだね、当時からスケッチを描くことが当たり前だった。
まだ勢いのあるうちにとにかく形にしたいから、頭ではそんなに考えられないので、とにかく描いて、何か良い線が出てきたぞと閃くのを待つ。
常にキョロキョロ何かネタが無いかフラフラ探しながら、腕が勝手に動くまで描く。
時には実験的に、ただ図形として面白い平面図を先に描いて、それを立体にしたらどうなるだろうとスケッチに起こしたりってこともするね。

保:とにかくスピード感を持って、いち早く頭のイメージを外に抽出するということをやられているわけですね。

金:過去に歌番組のセットで、台で周りを取り囲むようなデザインを作った時も、砂を撒いて、まわりに白幕をつけて、後ろからのライティングで見せるという発想はあったんだけど、台をどう置くかは模型でバーっと切ったスチレンボードを端から重ねていって、あとは模型をひっくり返してコピー機にかけて平面図も完成。
というような、とにかく早く作るということもやったね。

〈歌番組のセット模型〉

保:金子さんはとにかくデザインが早いと言われてますよね。

金:せっかちだからね。思いついた時にポーンと出さないと、デザインが萎んじゃうんだ。結論として、とにかくいっぱい描くってこと。

保:悩む時間は作らないようにされているんでしょうか?

金:いや、悩むよ。悩むけど、とにかく描いてるってことだね。

保:40年目のレジェンドのお言葉、とても響きます、、。
デザインをする上で、業務以外の時間にトレーニングしたり、意識して取り組んでいることはありますか?

金:常に、キョロキョロしているね。
街を歩いていても、気になるものはすぐ写真をとるし。
ウチで買ってきたキノコのザルなんかも形が面白い!って写真撮るし。
ショッピングモール行って見つけた造形が面白いなとか。
もちろん展覧会にも極力行くようにしていて、刺激を受けるようにしてるよ。
電車で前に立っている人の服の柄が気になって、ついじーっと見てしまったりすると、何この人って見られたりね。

保:通勤の時間にもデザインのタネを探しているんですね、、!

金:あとは、街中で気になったもののサイズをなんとなく意識して見るようにしていて、あの柱のサイズはこれぐらいだな、この格子はこれぐらいのサイズだから、部材の幅はこれぐらいかなとか。
色味に関しても、このグレーは広くなるとこんな風に見えるのかとか、生活の中で日々そういう感覚でものを見ることを意識してるね。
最近は新国立美術館で見た展覧会が特に面白くて、作品の緻密な素材の感じが良かったり、ドローイングの描き殴ったようなタッチが良かったり、立体感のある印刷の技法があったり、刺激的だったね。
とにかく気になったものを記録して、よく観察するね。

保:普段からネタを探していれば、いざデザインをする時にも発想に困ることは無いかもしれませんね。

 

「一週間で4杯のセットデザイン、15時間の打ち合わせ」

 

保:続いての質問です。この40年金子さんが携わった中で、特に思い入れ深かった番組は何でしょう?

金:うーん、やっぱり、「ザ・ベストテン」かな。月1回の放送を担当して6年間、12×6で、72回、一回の放送でセット3.4杯だから、だいたい250杯ぐらいのセットをデザインしたってことだね。
やっぱり毎回苦しいんだけど、演出も毎回面白いこと考えてきて、一回の打ち合わせも15時間ぐらいかかったりしてね。
途中で野球を見たり、食事をとったり、出たり入ったりはするんだけど。
当時秋元康さんが作家に入っていて、その場で絵を描いて見せて、なんか違うなと言われて描き直したり。
音楽も聴きながら、15時間の打ち合わせも2日続けてあったりもしたね。

保:15時間の打ち合わせは凄まじいですね!それも2日連続、、!それだけ毎回趣向を凝らした演出がされていたわけですね。

金:内容も面白かったし、何より、生の緊張感ってのが凄かった。
ベストテンのセットは、レギュラーのバンドセットと溜まりのソファのセットがあって、2ヶ所歌のセットを作るんだけど、一回で4杯ぐらい歌のセットがあるから、転換のことも考えなきゃいけない。
しかも5分とか短い時間で転換しなきゃいけない、いかにセットがスタジオに収まっているか、とかパズルのように考える。

保:生放送で転換もですか、、きちんとしたシミュレーションもできないとなると怖いですね、、。

金:スペースに収まるかとかきちんと収納できるかとか転換に関しては、すごく優秀な大道具操作さんがいて、パネルはここで折ってから吊りましょうとか、レールをこう付けたら上手く転換できますとか、すごく考えてくれる人で、本番でもケーブルはここから引き回してくださいとか、色々転換を仕切ってくれてすごく助かったな。
そうやって本番も転換間に合うかなとハラハラしながら見ていて、やった間に合ったぞ!とか言いながら、必ず21時54分には放送が終わるんだけど、時にはトラブルもあって転換が間に合わないってこともあったね。

保:過去の名シーンとしてドタバタの映像は見たことがありますが、実際現場にいたとなるともの凄いハラハラです、、。デザインも配慮がいりますね。

金:デザインを考える時には演出的なことも考えたな。
ディレクターにもこの方がいいんじゃない?って意見も言ったし、出演者の動きから考えることもあったし、そんなことまで出来る面白さがあった番組だったね。

保:改めて基本的なことを聞きますが、「ザ・ベストテン」は毎週木曜日の生放送で、月に1回分の放送を担当されてたということですよね?どういったスケジュール感だったんでしょうか?

金:番組に入った当時は3名のデザイナーで持ち回りに各回を担当していて、毎週水曜日にランキングが発表されると、木金土と打ち合わせをして、日曜に道具帳を書いて、月曜の午前中に発注、2日後水曜日に飾り、木曜に収録っていうスケジュールだったね。

保:怒涛のスケジュールですね、、!

金:一杯目のセットの発注をしたそばから、工場に図面をFAXで送って、また次って感じで。
だから大道具の工場も月曜の午前中から待ち構えてるわけね。
まあよっぽど時間がかかるような造形なら土日のうちに発注もするんだけど。

保:毎月そんなもの凄いスケジュールでやられていたわけですね、、。
「ザ・ベストテン」の中でも特に思い入れ深い、個人的ベストなセットはなんだったでしょうか?

金:さっき話にでた、松田聖子さんのシャンパンタワーのセット(松田聖子さん20歳の誕生祝いが行われた回の「赤いスイートピー」)は、苦労した分成功したなあと思ったね。
実際にシャンパンタワーには水を流して、アンバーの照明でシャンパンの色をつけて、裏のミラーにも余計なものが写り込まないようにジョーゼット幕を垂らしたりしたね。
アクリルと水に入った光の反射とで、すごく綺麗だったね。

保:苦労があった分、成功すると嬉しいですよね。その他には思い入れ深い番組は何でしょうか?

金:ベストテン以外で印象に残ってるのは、「ドキド欽ちゃんスピリッツ!!」って番組のコーナーの中で、体操の森末さんがトランポリンを使うんだけど、実際に飛び跳ねてもらいながら「もっと飛べますか?」とか「高さはこのぐらいです!」なんてやり取りしながらセットを考えたことなんかはよく覚えてる。

あとは「冗談ストリート」っていうギャグドラマでは、設定が結構変わることがあって、脚本家が「お茶の間のセットが転換したらニューヨークになっちゃうんだけど、これ台本に書いてもいいかな?」とか聞くんだよ。
俺は何でも書けば良いよっていうんだけど。
ギャグだから普通はありえないようなこともできるっていうところが面白かったね。

保:いわゆるコント番組のような感じでしょうか?

金:そうそう、コントみたいな感じだね。
人が入るエビフライを作ったり、傾いた家っていう設定の時は、窓外が半分土に埋まってたり。
ホラー系の設定で額縁が飛んでくるって脚本の時は、壁を水平に天井のように吊って、そこから額縁を落として、カメラは下から見上  げるように撮影して再現したよ。
そんなバカみたいなことでも、どうやったら面白くなるかなあって考えながらセットを作ってたね。

保:そういったコント番組だと、まさに美術が根幹になってくるというか、演出に寄り添って考えないといけないわけですね。

金:そうそう。しかも、それまでのコント番組なら書き割りで済ませていたところも、ドラマのようにしっかり立体物で作ったからね。

  一つ思い出したけど、昔の音楽番組のセットは照明で色を染めるために白いセットが多かったね。でも今は白いセットって少なくなって、しっかり木とか素材感を生かしたものが多くなった。

保:それはどういった理由で変化したんでしょう?

金:やっぱり照明機材が進化して照度も上がったから、木の上にも色がのせられるようになったのが大きいだろうね。昔はどんなに強く当ててもくすんでしまったから。

  照明のビームだけでもかなり見せられるようになったし、だいぶ変わったね。

保:技術面の進化によってデザイナーが選べる素材にも自由度が出てきたわけですね、、。

「一本の線にも責任を持つ」

保:さて、最後の質問ですが、我々若手・新人世代に対して、何か伝えたいメッセージはありますでしょうか?

金:これは、自分がハッとした昔の話で、さっきも言ったけど、番組はオンエアされて完成になる。
一方美術はたくさんの人の共同作業で作っている。
とあるコント番組で、色んなコーナーがあるんだけど、オンエアを見たら一つコーナーがカットになっていた。
カットする方は尺の都合なのか面白くなかったのか、理由があってカットしたんだろうけど、でも実はその時のセットは、大道具の入りたての子が初めて書き割りを任されていたセットで、オンエアをすごく楽しみにしてたんだよ。

その子はそのコーナーがカットされたオンエアを見て泣いてしまったんだって。

俺はその話を聞いてすごくハッとして、すごく責任を感じたなぁ。
オンエア上はあんまり写らない所でも、密度がある図面を描いちゃうデザイナーっているんだけど。
そういうものでもすごく一生懸命に作ってくれている人がいて、その人達の仕事がもしオンエアに乗らないものだとしたら、それって彼らにとって完結しないよねって思うんだよね。
オンエアされるために作ってるはずなんだから。

だから我々デザイナーは描く一本の線に責任を持たなきゃいけないし、なるべく写してもらうためにアングルとかワークについても意見を言うし。
写らなかったものをデザインしてしまったら、それは申し訳ないなという意識も持たなければいけない。シーンがカットされて泣いてる人がいるんだから、「あーカットされちゃったなー」っていう軽い気持ちじゃダメなんだということね。
そこを忘れないで欲しいな。

保:美術と一括りに言っても、多くのスタッフの方々に支えられて作られていますもんね、、。

金:みんなに助けられてやっとできているってことを忘れちゃいけないね。
たまたまエンドロールに名前が載るのが我々なだけで、そういった人達の仕事を背負ってるってことだよ。
そう言う意味でも、セットの作り方から理解しなきゃいけないし、構造も考えて作らなきゃいけないし。

保:すごく責任を感じます、、。

金:例えば、鉄の比重って知ってる?とか、これを作ったらどれくらいの重さになるんだろうとか。
なんとなくでも知ってて欲しいな。
道具帳描くときなんかは、みんな1/40で描くことが多いけど、そこは1/1で検証して考えようよ!って思うことも多いね。
クイズの回答卓とかさ。
出演者の身長がこれぐらいだから、台はこれぐらいだな、とか考えてね。
そんなことも大事だよ。まあ、とにかく色んな事に興味を持って、見聞を広く持ってください。

 

インタビューはここまで!

ラストには美術としてハッとさせられるエピソードもあり、とても勉強になる時間でした。

この日のために、過去の貴重なスケッチもご持参いただいた金子さん。長い時間お付き合いくださり、ありがとうございました!

そしてこの記事を読んでいただいた皆様、いかがだったでしょうか?

このインタビュー企画は、今後もシリーズとして続けていく予定ですので、第2弾もお楽しみに!

それでは、保田でした!